研究概要 |
ホール素子と磁化玉を用いて,作動中の玉軸受の玉運動を測定することができる.この測定値をもとに玉自転角速度を算出して玉運動を定量的に明らかにすることが望まれるが,提案されている計算式を用いて計算を行えば,算出値がばらつき,信頼できる結果が得られていない.この原因は,測定誤差や量子化誤差の影響と,玉自転角速度の計算式導出過程における一つの仮定(微小時間内で玉自転角速度一定)にあると考えられる. 本研究では,玉自転角速度の算出方法の改良をおこなった.概要および成果は次の通りである. 1.測定値に相当するデータを数値的に作成し,これを既知の玉自転角速度計算式に適用し,計算結果の信頼性について定量的に評価した.その結果,計算値は予測値と大きく異なることがわかった. 2.玉自転角速度算出式に代入する玉表面速度を補正することにより,計算値は予測値と良い一致を示すことが明らかとなり,自転角速度算出値の信頼性が格段に向上した. 3.測定値には量子化誤差が含まれるので,量子化誤差を含むデータを数値的に作成し,これに2.で提案した算出式を適用して玉自転角速度を算出した.その結果,量子化誤差を含む場合は,たとえ提案した補正を施しても正確な計算結果が得られなかった.この問題に対し,データをFIRフィルタで平滑化することにより,よい計算結果が得られることを明らかにした. 4.実測値を適用した場合の計算結果について評価をおこなった.その結果,量子化誤差の影響は極めて大きいことを確認し,加えて,ホール素子の検出特性に起因する測定誤差などの除去が,自転角速度の解析精度向上に有効であることを示した. 以上のように,実測値から玉自転角速度を求める場合,まず実測値に含まれる測定誤差を排除し,次いで改良した計算方法により自転角速度を算出すれば,従来より格段に精度のよい結果が得られることがわかった.
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