研究概要 |
本研究の目的は,毛細血管内で複雑な挙動を示す血球の流動抵抗の見積と,その流動モデルの構築である.しかし,生体内で抵抗を直接計測することはほとんど不可能であるため,数値シミュレーションによる解析を行うと同時に,生体外の実験装置を構築した.本研究は大きく分けて2つの内容からなる.一つは肺の毛細血管内における血球流動を模擬した数値シミュレーションであり,もう一つは,傾斜円心顕微鏡を用いた血球と個体壁との摩擦計測実験である. 前者においては,毛細血管を血球形よりも細い円弧状狭窄,白血球の一種である好中球を粘弾性体の球に模擬し,血球の変形,通過特性を解析した.特に肺の毛細血管網は密に入り組んでいるため,血球は毛細血管を通過した後に十分に形状を復元させずに次の毛細血管に進入する.そのため,毛細血管進入時の血球形状がその通過に大きな影響を与えると考えられる.そこで,連続する2本の毛細血管内に血球を通過させ,毛細血管形状,その間隔および血球の機械的特性が通過時間に与える影響を調べた.その結果,血球の通過時間が血球の最大半径に大きく依存することを明らかにするとともに,通過時間を見積もる数学モデルを導出した.これより,従来の研究で用いられてきた,個々の毛細血管における好中球の通過モデルは通過時間を過剰に見積もることを明らかにした. 後者においては,ガラス平板に対する赤血球の摩擦特性を,傾斜遠心顕微鏡を用いて測定した.傾斜遠心顕微鏡とは,測定部を回転させることによって試料に体積力を与えてその挙動を観察する遠心顕微鏡を改良したもので,測定部に傾斜がついているために遠心力を測定部底面に対して接線方向,法線方向に分けて与えることを可能とした.これを用いて観察を行った結果,ガラス板と血球間には非常に薄い隙間が存在することを確認した.これは,実際に毛細血管と血球との間に存在する血漿層に対応すると考えられる.
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