研究概要 |
水環境に関与する生態系の物質移動および循環に関して、微生物の栄養摂取の果たす役割が非常に大きいことが認識されてきており、海洋・湖沼の環境評価においては、栄養摂取量の正確な見積もりが必要である。その際、その周りの流れの影響を考慮した場合としない場合では結果が大きく異なってくる。自然環境下にある微生物は、乱流と考えられる周りの流体に流されながら移動しており、近傍の流れ場は線形流れだとして近似できる。また、能動的に自己推進する微生物は、その周りに泳ぎによる流現象の本質部分は、能動的に運動する物体と周囲との間の物質の対流拡散であり、微生物を直接の対象にしてこの問題を扱った。 グリッドなどに固定された微生物の栄養摂取量は,流れがある場合の方がない場合に比べて大きくなる。微生物周囲への物質供給量が異なり,微生物表面の物質勾配の大きさが異なることが原因である。つまり,沈降する微生物では,栄養摂取量が大きくなるものと考えられる。同様に微生物が静止流体中を運動するときにも摂取量は異なるであろう(Karp-Boss et al.(1996))。水中微生物の運動は,生存や増殖に適した環境への移動,あるいは適さない環境の回避として説明されるが,泳ぎの運動自体にも,栄養摂取の面で積極的な意味があるのではないかというのが,本研究の着目点である。 本研究では,流体中を自己推進する微生物の泳ぎと栄養摂取の関係について,Blake(1971)のエンベロープモデルを用いて調べた。泳ぎの運動がある場合,栄養摂取量が大きくなることが確認された。 また,物質移動と密接な関係をもつ細菌の遊泳運動に関して,とくに,壁面近傍での前進・後退時における速度の違いについて重点的に原因を調べた。その結果,菌体の回転数が遊泳速度と密接に関係しており,前進・後退時の速度変化は,菌体回転数の変化として説明できることを示した。 これらの成果の一部を国際会議(World Congress of Biomechanics)において発表した。
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