本研究によって明らかになった内容は以下のとおりである。 1.直流電圧印加後に、短絡されたポリエチレンテレフタレートフィルムと半透明電極との界面における、残留電荷密度の過渡的変化を測定した。新品のフィルムを用いた場合、短絡状態で半透明電極越しに紫外線(254nm)を照射すると、残留電荷は指数関数的にゆるやかに減衰するものの、数時間後、ある値で収束した。この結果は、紫外線のエネルギーで脱トラップできない電荷が多く存在していることを意味している。つまり新品フィルムの表面における不純物準位は、かなりの深さにまで分布していることが示唆された。 2.ポリイミドフィルムを用いて上記と同様の実験を行った。短絡後の残留電荷は、そのまま放置した場合には24時間経過しても全く減衰しなかった。しかし紫外線を照射すると共に急激に減衰が始まり、数分間で残留電荷は完全に消滅した。このことから、ポリイミド表面の不順物準位は、紫外線のエネルギーで十分脱トラップし得る程度の位置に分布していることがわかった。 3.上記の2種類のフィルムを、実験前にあらかじめ強い紫外線に曝す事により表面を強制的に劣化させた後、同様の実験を行った。ポリエチレンテレフタレートの場合、短絡後に残留電荷の存在を確認することができなかった。このことは紫外線劣化によりフィルム表面の電気的な特性が著しく変化したこと意味している。一方、ポリイミドにおいては残留電荷の挙動の大きな変化は認められなかった。 4.高分子フィルムと液体誘電体との界面に蓄積された電荷密度の測定を行った、各材料に固有の音響インピーダンスから算出される圧力波の反射係数を考慮すれば、高分子フィルムと液体界面の電荷密度をも精度良く測定できることを示した。圧力波信号を2秒間隔で測定できる計測システムを構築し、界面の電荷密度の過渡的変化の測定に成功した。
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