超伝導線材の交流損失を低減するために、マトリックスに埋め込まれているフィラメントを細線化することにより、磁束線の運動をピンニング・ポテンシャル内に制限し磁束線可逆効果を利用する方法がある。実際に金属系超伝導Nb-Ti極細多芯線や酸化物超伝導Bi-2223銀シーステープではこの効果が確かめられている。この現象の理論的な解明が望まれるが、これまでは臨界電流密度の磁界依存性を無視したCampbellモデルにより説明が試みられていた。このため、磁界依存性が大きい低磁界のところで理論と実験の違いが大きかった。 本研究では、この問題を解決するために臨界電流密度の磁界依存性を考慮した修正Campbellモデルを考え、新しく超伝導体内部の磁束密度分布を求めることのできる二階の微分方程式を導き出した。そしてこの微分方程式を数値的に解き、内部の磁束分布から磁化を求め、最終的に交流損失の見積もりを行った。 その結果、外部磁界を変化させたときの磁化曲線はマイナー曲線からメジャー曲線まで正しく一致しており、従来の不可逆な磁束線の運動を正しく求めることができていることが分かった。次に中磁界振幅では磁束線の動きは可逆運動を含み、完全に不可逆な臨界状態モデルの予想よりも小さな交流損失を得ることができた。また可逆運動が顕著なほど交流損失が小さくなる様子を確認することができた。したがって、実験結果をある程度説明することに成功した。今後は小振幅の計算では今回の課程が不十分であり計算ができなかったので、この点について研究を進める必要がある。
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