研究概要 |
本年度の研究では昨年度に引き続き,レチナールの水面上単分子膜(L膜)のπ-A曲線と吸収スペクトルの同時測定について,よりS/N比の高いスペクトル測定を試み,実験を行った。またそのデータについて定量的な配向モデルに基づく解析を行った。その結果,膜圧縮に伴って分子が水面に対して立ってくるが,場合によっては分子間双極子相互作用の影響により一時的に傾くことが示唆された。 また,レチナールの光異性化等による変化について調べるため,種々の波長の光を照射しながら吸収スペクトルの測定を行った。まずクロロホルム溶液について測定を行った結果,より長波長の光を照射した場合にもっとも変化が大きくなることが確認された。さらにLB膜について同様の実験を行ったところ,溶液状態の場合よりも変化が大きくなることが分かった。すなわち薄膜化することによって,光照射による変化の効率を上げることができることがわかった。 レチナール/クロロホルム溶液について濃度の大きく異なる試料の吸収スペクトル測定を行ったところ,高濃度の溶液ではモノマーのピークよりも短波長側に別なピークが出現することを確認した。これは溶液内でレチナール分子が会合体を形成するためであると考えられる。またこの変化は励起スペクトル測定によっても確認でき,低濃度と高濃度溶液では大きくパターンの異なるスペクトルが得られた。この場合高濃度溶液では,長波長側に新たなピークが出現する。このことから,膜内には吸収スペクトルで確認されたものとは別種の会合体も形成されていると考えられる。さらにLB膜について同様の実験を行ったところ,膜内の分子密度が低い場合も高い場合も,吸収スペクトルにはほとんど変化が見られなかった。しかし励起スペクトルでは溶液の場合とほぼ同様のパターンの変化が見られた。これは,LB膜内では1種類だけの会合体が形成されていることを示していると考えられる。
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