研究概要 |
Homophonic Coding(以下HCと略記)は,シンボルの生起確率に偏りのある情報源の出力を,近似的に一様乱数とみなせるように変換する符号化法である.HCの出力からはもとの情報源の統計的性質が失われるので,一般には,もとの情報源出力を直接暗号化するよりもHC出力を暗号化した方が,暗号文は安全になる.本研究で考える情報源は,無記憶性やマルコフ性などの仮定のない一般の情報源であり,一般の情報源に対するHCの基本的な性質を調べることが本研究の目的であった. 昨年度の研究において,一般情報源に対する固定長のHCの基本的な性質が明らかになったので,本研究では今年度はHCを秘密鍵暗号系に組み込んだ新しい暗号系を考えて,その新しい秘密鍵暗号系のもつ基本的な性質を議論した.新しい秘密鍵暗号系の性能を決定する要素には3つの量,すなわち,暗号文のレートR_C,鍵のレートR_K,HCで用いる一様乱数のレートR_V,があり,(1)HC出力が近似的に一様分布と見倣せて,(2)ある許容範囲以上の情報が暗号文から漏れない,という2つの条件のもとで,3つのレートR_C,R_K,R_Vの取り得る値の限界を考えた.今年度の研究成果は,R_C,R_K,R_Vの取り得る値の限界を完全に明らかにしたことである.実際,R_Cの下限は情報源の圧縮限界であり,R_Kの下限は条件(2)で許容範囲を決めるパラメータで決まり,R_Vの下限は固定長HCで現れる基本的な量となることが示された.求めた下限は,十分大きな符号語長で情報源をブロック符号化すれば達成可能である.
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