研究概要 |
本年度に行った研究業績を要約すると次のようになる. 1.量子回路の物理的実現の評価方法の検討 量子回路を何らかの物理現象により,実現しようとする場合,様々な要因から,厳密には理想的な動作をせず,近似的に理想的に近い動作を行う.このため,近似の妥当性を評価する必要があるが,これまで,近似の評価は,基本量子ビット入力の場合にフィデリティを計算し,1に近ければ近似が妥当であり,わざわざ任意の入力に対し,別途評価する必要がないという見方が多かった.これに対し,基本量子ビット入力の場合にフィデリティが、1であっても,その重ね合わせ状態を入力した場合に,フィデリティが1にほど遠いような場合が存在することを,具体的な物理現象を特定しない一般論として,明らかにした.このことは,本研究で行ってきた近似評価が,正に必要不可欠であったことを意味する. 2.コヒーレント状態による量子ビットに対する1量子ビット回路の実現法の評価 最近の量子テレポーテーションの研究成果を根拠として,コヒーレント状態による量子ビットが考察され,イギリス及びオーストラリアのグループにより,1量子ビット回路の近似的実現法が示されている.本研究では,昨年度基本量子ビットに対して行った近似妥当性の考察を,重ね合わせ状態による量子ビットを入力した場合まで拡大し,考察した.その結果,入力のパワーが大きいとき,入力が重ね合わせ状態であっても,近似が成立することがわかった. 3.2つの1量子ビット回路の実現法の比較 昨年度と今年度で評価してきた2つの量子回路は,一方は,近似が成立せず,他方は成立している.しかし,双方とも,基本的には,ビームスプリッタを用いて構成されており,どこに本質的な違いがあるか,検討することが,どのような条件を満たす物理現象が,量子回路が成り立つために必要かを明確にするため,重要である.このため,両者のメカニズムを考察したところ,双方とも,線形光学素子であり,そのままでは,量子干渉を引き起こす量子回路に使うことが難しいが,近似の成立する方は,あらかじめ用意する重ね合わせ状態を利用することが鍵となっていることをつきとめた.
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