研究概要 |
本研究は,庭園での水利用に見られるような極めて私的な生活空間からその水の取水源である自然河川に到る広域的な都市空間を一定の景観論理(水路網の階層的秩序)に基づく一つのシステムとして捉え,これを介して水路,地割,街路,建築等の異なるシステムのネットワークを有機的に結び付けて総合的に議論し,河川空間を中心とする都市整備計画と具体的景観設計への指針を得ることを目的とするものである. 本年度の研究では,南禅寺を中心とする東山界隈の水路ネットワーク及び周辺の敷地開発の変遷,敷地開発による宅地の増大,水路網の拡大に伴う敷地立地の変遷,敷地造成の変遷を明らかにした.特に,明治期に建設された琵琶湖疏水の南禅寺界隈への挿入の与えた水路網への影響及び敷地立地,敷地(庭園)造成,敷地景観への影響,これらの相互関係を,地形,水路網の変遷,南禅寺周辺の宅地開発史の詳細な分析から明らかにした. 中世以前からの初期段階の流水システムは,東山からの複数の流水が平行して自然流下する単一水系による流水システムであり,敷地占地は水源から始まり上流(山裾上部)の扇状地先頂部から順に占地する形式であった.その後の琵琶湖疏水建設以前は,上記単一水系からの導水による水路が形成され,敷地はやはりこの水路に沿って上流から順次形成される流水システム依存型の占地であった.山地斜面から離れて占地する敷地(庭園)造成は微小な地形の傾斜等自然地形の一部を利用して山水を表現する残山剰水型の造成,表現形式であった.琵琶湖疏水建設に伴いそれまでの流水システムは崩壊するが疏水の水がこれを保障すると共に,流水システムは複次化・複雑化し,敷地における取水/排水の自由度を生んで別荘宅地開発が進み,流水システムは更に多様化した.この複雑な流水システムにより敷地形成における流水システムへの依存度は低くなったが,流水システムをはじめとする地割,街路網等の形成は地形を基盤として相互に強い関連性が認められた.鉄管という技術の利用を利用しつつ水路網の多くは開渠であり,琵琶湖疏水建設に伴い形成された複雑な水路網は南禅寺界隈の水空間イメージの形成に大きく寄与した.
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