本研究は旧横須賀鎮守府管下建造物における建築構造技術の変遷を明らかにすることを目的に実施したものである。平成13年度の研究では、旧横須賀製鉄所副首長ティボディエの官舎建築の現存を実測調査と史料調査の結果により確認した。旧横須賀製鉄所および横須賀造船所の建造物としてはドライドックなどの現存が広く知られていたが建築で現存が確認されたのは、本研究によって確認されたティボディエの官舎建築が唯一である。建築構造技術的な特色としては、小屋組みにトラスを用いており、小屋組みの荷重は桁を介して側柱が負担する方式であることが確認された。すなわち、側柱が陸梁端部を支持する桁下に存在しなければならないという点を除けば、柱の位置や間仕切りの位置などが建築構造技術に縛られること無く自由に配列できるという利点がある。また、史料調査結果との照合による限りにおいては、建設当初のティボディエの官舎建築の構造形式は、木骨煉瓦造である可能性が高いといえる。この建物は日本近代建築史上で第一級の資料であると考えられるが、研究期間中に解体撤去の計画が具現化し、横須賀市教育委員会による敷地測量と建物全体の記録図作成調査が実施された。本研究では予備的実測調査以外に、研究の観点を建築技術の特色に絞った調査を進めた。 平成14年度の調査では、旧横須賀鎮守府管下建造物の写真撮影調査と史料調査を実施し、調査対象となり得る多くの建造物の現存を確認した。しかし、建物内に入って調査できたものは限られ、今後に課題を残した点も多い。また、史料調査としては、幕末・明治初期の史料から順を追って概観を試み、横須賀製鉄所・造船所時代の考察として、ここで行われていた建設材料研究の歴史的意義の重要性に着目した研究を進めた。この研究は、ティボディエの官舎建築の当初の建築仕様と構造の本質を探る上でも重要であり、横須賀鎮守府管下建造物が日本の建築技術の近代化に果たした役割の一端を確認できる史実であるといえる。
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