研究概要 |
本研究の目的は、正二十面体クラスターなどに特徴づけられる近似結晶の単結晶作製とその電子物性及び異方性の測定である。本年度は、Cd-Yb系、Cd-Ca系、Cd-Y系及びCd-Tb系近似結晶の単結晶の作製を試み、その電子物性の評価実験を行った。試料組成はCd6M(M=Yb, Ca, Y, Tb)で、作製方法は、アルミナるつぼに原料金属を入れて石英管に封入し、電気炉を用いて徐冷法により単結晶塊を育成した。得られた単結晶粒の評価には背面X線ラウエ法を行い、電子物性としては、1.8Kから300Kの温度範囲で電気抵抗率及び比熱の測定、異方性の評価としては1.8K以上、9テスラ以下の磁場下で磁気抵抗の測定を行った。また、フェルミ準位近傍の価電子帯構造を調べるため高分解能光電子分光測定を行った。 電気抵抗率の温度依存性はいずれの合金系でも正で、金属的な伝導を示した。一方、光電子分光測定の結果、2価のCaを含んだCd6Ca系においては、Caのdバンドがフェルミ準位に差し掛かっているのに対し、3価のYやTbを含んだCd6Y及びCd6Tbにおいては、YやTbのdバンドが完全に満たされていることが明瞭に観察された。以上のことより、Cd6YbやCd6Caにおいてはd電子も電気伝導に関与していることがまず結論された。さらに、低温比熱測定の結果より、3価のYをもつCd6Yと、2価のYbやCaをもつCd6YbやCd6Caの間に顕著な差が見られた。光電子分光の結果とあわせて、Cd6Yb及びCd6Caの大きな電子比熱係数はフェルミ準位にかかっているdバンドに由来するものであることが結論された。さらに、今回、Cd6Tbの電気抵抗及び比熱の測定で2K及び20Kの低温で新たに相転移が見つかった。今後のさらなる研究の進展が望まれる。異方性に関しては、磁気抵抗測定の結果、これらの単結晶の各方位に有意な差が見られなかった。このことよりこれらの近似結晶の電子構造が非常に等方的であることが分かった。
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