研究概要 |
イオン伝導とは、異方性が高く、相互に関係のある力学的な歪みと電気的な歪み(分極)を併せ持つ結晶格子中を、電荷を持った点欠陥(酸素イオン空孔)が両場の相互作用を受け、構造緩和を行いながら拡散する複雑な輸送現象である。これまでに我々は導電率は内部摩擦の大きさ、つまり格子歪みの異方性が大きいほど大きいことを定性的に明らかにしてきた。本研究では、これまでに測定した内部摩擦の統計力学的な解析(緩和時間の連続分布関数を考慮に入れたピーク解析)を行い、その結果内部摩擦ピークは2種類の点欠陥対による2つのピークによるものであり、その一つは時効前後ともtrigonal称性を持つ酸素イオン空孔とドーパントカチオン(Y3+)の欠陥対によるものであり、もう一つはドーパントカチオン二つからなる欠陥対であり、時効前は[110]orthorhombic対称であり時効後はtrigonal対称に変化することが分かった。また、ともに時効により格子歪みの異方性が低下し構造が安定化しているとも分かった。今年度は、イットリア安定化ジルコニア単結晶に関して、内部摩擦のような応力場誘起の拡散現象と比較するために、静的応力場および電場の下での挙動に注目し、応力場と電場下でのイオン伝導度を測定し、イオン伝導機構を明らかにするとともに、新たな4階の物質テンソルの発見をした。 試料は、10mol%のY203を安定化剤としてドープしたZrO2の単結晶を用い(応力軸および電場方向が、[100],[311],[211],[111],[110]の5種類)、温度は導電率が時効により低下しない1273Kにて、静的な格子歪み(弾性エネルギー)がイオン伝導に及ぼす影響を調べるために、圧縮軸応力を付加した状態で外部電場下におき導電率を測定した。その結果、導電率及びその活性化エネルギーは始め応力に比例して低下し、その後下に凸な2次関数に従い低下した。導電率の低下は、電場・応力場と電流の間の2次及び3次近似物質テンソルの効果が現れたものであり、以下に示した式に従うことが分かった。また、導電率の低下は圧縮に伴う酸素イオン空孔の移動の活性化エネルギーの上昇に起因していると結論した。さらに、下の式に見られる、第2項目の4階のテンソルは、trigonal対称性を示し、内部摩擦測定の結果から得られた酸素イオン空孔を含む点欠陥の対称性と同じであることから、あらためて、イオン伝導とは、相互に関係のある力学的な歪みと電気的な歪み(分極)を併せ持つ結晶格子中を、電荷を持った点欠陥(酸素イオン空孔)が両場の相互作用を受け、拡散する複雑な輸送現象であり、格子歪みの異方性とイオン電電道の関係を直接定量的に証明できた。 J_i=(σ_<ij>+(δ^2j_i)/(δE_jδξ_<kl>)ξ_<kl>+1/2(δ^3j_i)/(δE_jδξ_<kl>δξ_<mnl>)ξ_<kl>ξ_<mnl>)E_j
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