当該研究課題の成果について国内発表5件を行った。アメリカ化学会発行の論文誌The Journal of Physical Chemistry AおよびJournal of American Chemistry Societyにそれぞれ1件の論文を発表した。これまでの我々の検討からホット分子(高振動励起状態)は光反応の中間体として極めて重要であることが分かっている。これは光で創り出すことのできる超高温分子である。本研究ではホット分子機構の優位な点を最大限活用した研究を行い、成果をあげることが出来た。 1)通常の熱反応では(光励起で到達できる数百kJ/molの状態では)熱分布は極めて広範囲のエネルギー幅で広がり、ある特定のエネルギーでの反応速度を特定することは不可能である。一方、ホット分子機構では室温での熱分布を保ったまま内部エネルギーを高めることが出来ることから高エネルギー分子の速度論の検討には最適である。まず、反応速度測定用の測定装置を既存の測定装置に合わせて構築し、これを用いて歪み化合物の反応を観測した。反応速度における歪みエネルギーの効果については定性的には言及されているが、定量的に反応速度に与える影響を調べた例はほとんどない。得られた結果を反応速度論、理論計算と比較し、良好な一致を得た。 高エネルギー状態での反応速度論に寄与出来たと言える。2)「レーザーによる多光子反応」の報告ではそのほとんどがイオン化である。特に真空紫外光を用いた場合は2光子で容易に分子のイオン化ポテンシャル以上のエネルギーとなるためイオン化が生じるが、ホット分子機構の場合、エネルギーは極めて高速に分子全体の振動エネルギーに分配されるため2光子目を吸収する場合においてもイオン化ポテンシャルを越すことは無い。そのためイオン化ではなく化学反応が生じることが大きな特徴である。例えば、ビフェニレン、これは従来光化学的に不活性(内部変換効率がほぼ100%)だと考えられてきた分子であるが、多光子ホット分子機構により初めて光誘起の反応を見いだすことが出来た。この例のように多光子ホット分子反応を開拓することで新規な光反応経路を開拓することが出来ることを示した。
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