研究概要 |
イネの暗呼吸の抑制は,乾物生産や収量の増大に貢献すると考えられている.そこで,シアン耐性呼吸の抑制の可能性を検討するため,酸素同位体分別を利用した測定装置を製作し,イネ葉身における測定法を検討した.その結果,オルターティブ酸化酵素の分別係数は,3分間10mMのKCN溶液に浸漬後,HCNに1時間さらすことで得られ,シトクロム酸化酵素の分別係数は,30mMのSHAM溶液に浸漬することで推定できると考えられた.つぎに,イネ葉身のシアン耐性呼吸速度を変動させる環境条件について検討するため,4月中旬から1ヶ月毎に3回播種し,8葉期から登熟期までの暗呼吸速度とシアン耐性呼吸速度を測定し,生育段階と環境変化による変動を調べた.その結果,イネ葉身の暗呼吸速度は,生育段階や環境条件により大きく変動し,暗呼吸速度に占めるシアン耐性呼吸速度の割合は17〜54%まで大きく変動した.しかし,シアン耐性呼吸速度は,生育段階や1日の日射量,気温,および葉身の窒素含有率の影響をほとんど受けないことが明らかになった.さらに,イネのシアン耐性呼吸速度には,日変化も認められなかった.つまり,イネのシアン耐性呼吸速度は,これまで報告された植物種とは異なり,極めて安定していることがわかった.このため,イネ葉身のシアン耐性呼吸は,ATP要求とは独立して働くと考えられ,暗呼吸に占める割合は平均40%と高いものの,栽培方法の改良によるシアン耐性呼吸速度の抑制は困難であると考えられた.
|