研究概要 |
日本産ユリ科植物のうち,Hemerocallis (ワスレグサ)属から,地理的分布とその生育地の環境が著しく異なるゼンテイカ(H.dumortieri var. esculenta)とハマカンゾウ(H.fulva var. littorea)を選び,種子発芽習性について究明した。ゼンテイカは,樺太,北海道,本州(中部,北部)の山地や亜高山帯の積雪地域に多く生育する。一方,ハマカンゾウは,本州(関東以西)から九州の日当たりの良い乾燥しやすい海岸斜面に多く生育する。したがって,当初,ゼンテイカの種子は,散布後,積雪による低温湿潤条件下におかれて後熟性がすすみ発芽すると予測した。逆にハマカンゾウの種子は積雪のない乾きやすい環境に多く散布されて,後熟性はないと予測した。後熟性とは,胚の未熟な状態であるのが視覚的にも判断できる状態であることから判断した。そして,種子採取後,異なる水分条件下に貯蔵し,定期的に取り出して行う発芽実験と,胚と胚乳の大きさの変化の観察によって後熟性の有無を決定した。この結果,ゼンテイカとハマカンゾウのいずれの種子も,予測に反して後熟性が有り,しかもその後熟性は低温湿潤条件下に置かれた時にすすむという共通点があった。ゼンテイカの種子は,散布後,積雪下におかれて種子の後熟性がすすむと考えられる。一方,ハマカンゾウの種子は,本州の関東以西の海岸地で,積雪が少なく周囲は乾燥しやすい場所に散布(重力散布)されるようであるが,実際は,他の草本(イネ科等)が生育している場所や岩の割れ目等の湿った場所に散布された種子のみ発芽生育しているのではないかと考えられる。そして,ハマカンゾウの場合は,湿った場所に散布された種子のみ,冬季の低温に曝されて後熟し,発芽,生育するのではないかと考える。さらに,本研究の結果と他研究者による同属異種に関する種子後熟性の結果から,Hemerocallis属では,地理的分布の違いに係りなく,多くが種子後熟性をもつと考えられる。
|