研究概要 |
抗酸化性食品因子がラット肝癌細胞の浸潤を抑制すること,その抑制作用が活性酸素種によるHGF遺伝子発現亢進を抑制することにより発揮されていることをすでに確認している。活性酸素種によるHGF遺伝子発現亢進の分子機構を解析するため,最初に内因性の活性酸素種を低下させた際の効果を解析した。低分子抗酸化物質であるNアセチルシステインを添加し,細胞内の過酸化レベルを低下させると,HGF mRNA量,HGF分泌量ともに濃度依存的に減少し,抗酸化性を有する物質がHGF遺伝子発現を抑制することが確認された。更に抗酸化性食品因子の一つであるブドウポリフェノールを添加した際の肝癌細胞におけるHGF遺伝子発現の変化を解析したところ,やはりHGF mRNA量,HGF分泌量ともに有意に減少した。以上の結果は,抗酸化性食品因子はその抗酸化性により,細胞内の過酸化レベルを低下させ,それにより癌細胞運動を抑制し,ひいては癌細胞浸潤を抑制していることを強く示唆している。次に詳細な分子機構解析のためHGF遺伝子のプロモーター領域のクローニングを行った。データベースに登録されている配列をもとにプライマーを設計し,調製したゲノムDNAを鋳型としてPCRにより約600bpのプロモーター領域をクローニングした。得られた配列を確認後,ホタルルシフェラーゼ遺伝子を含むベクター(pGL3-basic vector)に得られたプロモーターを挿入し,肝癌細胞に導入し,活性酸素種処理によるルシフェラーゼ遺伝子発現量の変化を測定した。その結果,今回クローニングした600bpの領域はラット肝癌細胞においてBasalなプロモーターとして作用することは確認できたが,活性酸素種によるHGF遺伝子発現の亢進には関与していないことが明らかとなった。したがって今回クローニングした部分より,更に上流領域が関与している可能性が示唆された。
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