研究概要 |
ラクトフェリンは鉄結合性の糖タンパク質であり、好中球と腺上皮細胞で合成され、体内外に分泌される。ラクトフェリンは乳、唾液、涙、血液、消化管粘膜などに存在し、健康維持に関わる多機能性タンパク質として注目されている。特に、炎症性腸疾患がラクトフェリンにより軽減することから、腸管免疫機能発現におけるラクトフェリンの作用機構解明が望まれている。本研究では、腸に発現するラクトフェリン結合タンパク質の精製とそのcDNAを単離し、アミノ酸とcDNA配列を決定し、本タンパク質と炎症性腸疾患との関連性について解析を行った。 マウス各組織タンパク質に対してリガンドブロッティングを行い、十二指腸、小腸、盲腸、大腸に分子量約500kDaのラクトフェリン結合タンパク質の存在を明らかにした。本タンパク質をアフィニティカラムによりマウス小腸から精製し、アミノ酸配列とcDNAの配列を決定し、ILBP(Intestinal Lactoferrin Binding Protein)と命名した。アミノ酸の一次構造解析より、ILBPはムチン(mucin)様タンパク質と類似したドメインを有し、特にIgGのFcγ領域と結合するタンパク質であるヒトFcγBP(Fc gamma binding protein)と高い相同性を示した。ILBPは非還元状態では500kDaであるが、還元状態では5つのタンパク質(55,60,65,70,120kDa)に解離されラクトフェリンとの結合力が失われた。この結果より、ILBPの分子間ジスルフィド結合による構造形成がラクトフェリンとの結合に必須であることが示された。また、ILBPは脱糖鎖したラクトフェリンも結合することを見出し、糖鎖を介さない結合であることを明らかにした。更に、ILBPの発現量は、デキストラン硫酸誘発腸炎マウスにおいて、腸炎の初期と回復期に増加した。この結果からILBPは粘膜を保護し、腸管免疫に関与することが示唆された。 本研究によりムチン様タンパク質とラクトフェリンとの結合が初めて明らかになり、腸管免疫機能発現においてこれらタンパク質の分子間相互作用が重要な役割を果たすと考えられる。
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