交雑ヤマナラシを材料に、多種類のリグニン生合成関連遺伝子の発現が変化した遺伝子組み換え樹木の作製とそれらのカタログ化をめざして実験、研究を実施した。本年度は、リグニン生合成に関わる酸性ペルオキシダーゼ遺伝子(prxA3a)とバクテリア由来のフェルロイルCoA分解酵素(FerB)に着目した。前者については、ゲノムライブラリーから単離した当該遺伝子のプロモーター領域にイントロンを含むコード領域をアンチセンス方向につなぎ換えた遺伝子コンストラクト(prxAntiA3)を作製し、これを導入した交雑ヤマナラシの組換え個体を多数作製した。FerBについては、タンパク質のコード領域をカリフラワーモザイクウィルス35Sプロモーターに連結した遺伝子コンストラクトpTRFerBを作製した。これを交雑ヤマナラシへ導入することで、組換え個体内においてFerBタンパク質を発現させ、それによるリグニン生合成経路の改変を期待した。 prxAntiA3を導入した組換え交雑ヤマナラシにおいては、特定の個体から抽出した粗酵素液中のペルオキシダーゼ活性が、野生型個体のそれに比して有意に低下しており、更に細胞壁中のリグニン含有量も低下していることが明らかになった。また、pTRFerBを導入した組換え交雑ヤマナラシでは、本来植物細胞にはないFerBタンパク質による酵素活性が検出され、バクテリア由来の遺伝子が植物内で機能することが示された。現時点では、pTRFerB導入個体についてリグニンに関する分析を実施していないものの、野生型個体と比較して顕著な形態的差異が見られることから、リグニンの量や化学構造などにも何らかの変化が起こっていることが予想される。
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