研究概要 |
広島湾におけるカキ養殖は古くから盛んであり,同湾を中心とした広島県のカキ生産量は全国生産の6〜7割を占めている.しかしながら,近年広島湾のカキ養殖には様々な問題がある.生産量や品質の低下,有毒プランクトンの発生,底質の悪化などである.このような問題は一般的には過密養殖の影響といわれている.しかしながら,何をもって過密養殖と判断すべきか、その基準作りは非常に難しい.現在では養殖量を削減するような提案がなされているが,その根拠は定量的に乏しいものである.本研究では広島湾における適正カキ養殖量を,窒素・リンの物質収支の観点から定量的に明らかにすることを目的とする.本研究では,広島湾奥部を対象としたボックスモデルを構築し,河川からの栄養塩供給,海域内での植物プランクトンの光合成活動,隣接海域との海水交換,カキによる植物プランクトンの取り込みなどの生物過程をモデルに加えて,広島湾奥部の栄養塩の物質収支を明らかにし,カキ養殖をめぐる生物過程を変化させ物質収支の予測を行い,海洋環境,持続的生産,経済的効率などを判断し,適正カキ養殖量についての提言を行う.今年度はカキ養殖を除く物質収支を明らかにする生態系モデルの構築と,カキ養殖に関する生理生態的特徴の定式化と各種パラメータに関する資料収集を行った.物質収支モデルでは,栄養塩(窒素とリン),植物プランクトン,動物プランクトン,プランクトンの死骸や鉱物などの非生物粒子(デトリタス)を構成要素とし,それぞれの要素間の生物・化学過程を既存の文献から得られた数式によって近似した.このモデルに,既存の資料から得られた,栄養塩などの現存量,降雨量,海水交換,河川からの栄養塩供給などを入力し,それぞれの構成要素の時問変動を計算し,現状の観測結果を再現するように不確定パラメータを変化させ,そのモデルを用いて広島湾奥部の物質収支を定量的に明らかにした.
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