研究概要 |
遺伝子組換え作物の急速な商品化を受けて,大豆の主要生産・輸出国である米国,ブラジル,アルゼンチンの実態を把握するための文献調査ならびにブラジル・アルゼンチンの現地調査を行うとともに,主要輸入・消費国である欧州諸国と日本の消費者世論と食品安全規制の動向を調査した。 コーデックス委員会や生物多様性条約バイオセイフティ議定書,OECDなどの国際交渉の場では,徐々に産業界と米国やアルゼンチン等のGMO生産・輸出国の意向が反映しづらくなり,EU諸国を中心とした規制強化の方向に政策調整がシフトしてきている。そうした中で,ブラジルでは今なおGMOの栽培認可がペンディングされており,主にEU諸国向けに非GM大豆の生産基地としての地位を確立しつつあるが,隣国であるアルゼンチンやウルグアイからGM大豆種子が不法に流入し栽培されている実態も報告されている。とくに中小家族経営が集中する南部国境諸州では,反GMO政策をとる州政府や農業普及機関,環境NGO等の活動が活発であるだけに,農業生産者は難しい選択を迫られている。現地調査を行った最南端のリオグランデドスル州では,農業普及機関(EMATER)はGM大豆か非GM大豆かという選択にとどまるのではなく,有機農業を含む環境保全型農業やローカルマーケットへの志向を強め,いずれにせよ競争が激化して中小家族経営に不利な大豆のバルク生産・バルク流通から脱却するよう,農家への普及活動を進めている点が注目される。 なお,アルゼンチンは米国以上にGMOが急速に普及しているが,とくにブラジルとのスタンスの違いについては,アルゼンチンの大豆生産の主要な担い手が中小家族経営ではなく,大規模商業的農業経営である点,ブラジルと比べてNGOやオルタナティブ農業の活動が脆弱である点に求めることができる。
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