地域住民の生活の変化が周囲の自然環境に影響を及ぼした結果、野生獣の集落への出現が起こっていると考えられる。そこで、野生獣の集落への出現が報告されている2地区で調査を行った。都留市上大幡地区ではイノシシの出現を住民の多くが認識した時期が1970〜80年代であるのに対し、中道町中畑・心経寺地区では1990年代後半以降と違いがみられた。この時期の違いと地域住民の生活の変化との関連を明らかにするためには、周囲の自然環境に影響を与えると考えられる生業活動、自然資源利用の変化を把握する必要がある。また、集落内の土地利用、自然資源利用の範囲の変化をGISを用いて、これらの時期の違いとの関連性を考察した。 生業活動の変化をみると、都留市では養蚕・機業と雇用労働との兼業から1960〜70年に急速に雇用労働へと単一化した。一方、中道町では養蚕から1980〜90年頃に果樹栽培に変化し、現在では5〜6割の世帯で雇用労働との兼業がみられた。 自然資源利用の変化では、生活に必要な資材(薪・落葉など)を得る利用は、ガス、石油や化学肥料の導入等により戦後漸減したが、急減期が都留市では1960〜70年、中道町では1980〜90年にみられた。養蚕の農閑期である秋から春に多くの利用が行われていたことが、自然資源利用の急減期と養蚕の衰退時期とが一致する理由と考えられる。 土地利用および自然資源利用の範囲の変化をGISを用いて示すと、養蚕の衰退に伴って集落周囲の林縁部にあった桑畑が都留市では1960年以降、中道町では1980年以降に耕作放棄地や十分に管理がされない植林地へと変化した。また、自然資源利用の範囲が利用の減少に伴い道路沿いなどに狭小化していた。 養蚕衰退に伴って集落周囲の自然環境が変化したと考えられた。また、野生獣の出現の時期には養蚕衰退の時期が関連していた。このことは、桑の耕作放棄地は放棄してから5〜10年で密林化し野生獣の採餌場所となる好適な生息環境となること、利用する土地が狭小化することで住民と野生獣との緩衝地が消失し野生獣の集落へのアクセスルートとなることが考えられた。
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