研究概要 |
目的と方法 中山間地域の耕作放棄地,放棄林地および牧野を黒毛和種繁殖雌牛の放牧飼養により積極的に活用することを目的に,これらの土地の草資源と想定される野草の(1)反璃胃および消化管内での消化特性(2)野草地植生の季節変化とそこでの放牧牛の栄養利用変化を検討した。 結果と考察 (1)野草(ネザサ)と牧草(イタリアンライグラス)の反芻胃内分解率を比較した結果,乾物,繊維(NDF)および粗蛋白質のいずれにおいても野草の分解率が牧草よりも低かった。消化管内の通過速度も野草が牧草に比べ遅い傾向にあった。これらの結果は野草の採食量および消化率を,牧草よりも低下させうる要因と考えられた。 (2)野草地(ネザサ主体)の現存草量は春に多く秋に少なかった。植生中の出現植物種数と各植物種の現存割合は春から夏の変化が夏から秋の変化より大きかった。牛の採食植物種とその喫食割合も春から夏の変化が夏から秋の変化より大きかった。採食植物の栄養価は植生全体の栄養価よりどの季節でも高かった。このため草量が十分な場合では,牛はエネルギーおよび蛋白質の要求を十分に満たせた。しかし,草量が少ない場合では蛋白質の要求量は満たせるが,エネルギー摂取量は不足した。これらの結果から,野草地で牛の放牧飼養をする場合には,エネルギー摂取量の不足に注意を払うべきことが明らかとなった。 まとめ 以上の結果から,反芻胃および消化管内での野草の分解率と通過速度は牧草よりも低く,野草は動物にとって利用性が低いことが明らかとなった。しかし,牛は野草地植生から比較的栄養価の高い植物を選んで採食していることが示唆され,こうした対応により草量が十分な場合には,その栄養要求を満たせることが示された。一方,草量が少ない場合にはエネルギー摂取量の不足が第一に懸念されるため,野草地で放牧飼養する場合には,エネルギー飼料の補助的な給与を検討する必要性が示唆された。
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