研究概要 |
外国から導入された牧草や芝草は,その生態的特性から野生化しやすく,生態系や生物多様性の保全の面から,野生化に関する生態遺伝学的研究が重要かつ緊急の課題である。そのような外来牧草の一つに欧州原産のライグラス類(Lolium属)がある。日本へ導入されたライグラス類には,短年生のイタリアンライグラスと多年生のペレニアルライグラスがあり,両種は自然条件下で交雑し雑種を形成することが報告されている。本研究では,日本各地に導入され野生化したライグラス類における雑種形成と侵入性との関係を解明するために,種識別法の開発,及び種間雑種の量や分布についての調査を行った。 1.種識別法の開発:イタリアンライグラス,ペレニアルライグラスおよび種間雑種を識別するために,共優性マーカーであるアイソザイム変異を栽培品種について調査した。その結果,Pgi-2とSod-1遺伝子座で種間に対立遺伝子頻度の差異が認められた。ただし,種特異的な遺伝子は見つからなかった。 2.ライグラス類の分布調査:自生集団は主に交通量の多い道路沿いや河川敷,公園などに分布していた。その多くが一年生で,種子更新によって集団を維持していた。日本各地の自生集団について,アイソザイム遺伝子及び蛍光反応率を調査した結果,北海道の自生集団はペレニアルライグラス栽培品種に類似した遺伝子頻度のパターンを示した。一方,本州以南の自生集団はイタリアンライグラス栽培品種に遺伝的に近かったが,中にはペレニアルライグラスに特徴的な遣伝子を多く保有する集団もいくつか観察された。これらのことから,日本,特に本州以南で野生化したライグラス集団に雑種化した個体がある程度含まれていることが明らかとなった。
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