研究概要 |
病的老化の中でも、閉経後骨粗鬆症についてのエストロゲン(E2)の低下、欠乏が主因であるが、骨代謝に対するエストロゲンの作用にエストロゲン受容体(ER)を介する働きが必須かどうかを直接証明した報告はない。そこで、本年度はERαとERβ両方のシグナルを阻害するドミナントネガティブ体を発現させたトランスジェニック(Tg)ラットを解析することにより、雌雄での骨に対するエストロゲン作用メカニズムの差異を検討した。まず、Tgラット由来の初代培養骨芽細胞、平滑筋細胞を用いて、E2による細胞増殖効果や、MAPKリン酸化などの細胞内情報伝達機構へのnongenotropic作用に対するER変異体の影響を調べた。Tgラット由来の初代培養骨芽細胞、平滑筋細胞では、E2添加に伴う細胞増殖の抑制や、細胞内MAPKリン酸化の消失など、従来知られているgenotropic作用に対してだけでなく、nongenotropic作用に対してもER変異体が抑制する可能性が示唆された。次に、3ヶ月齢の雄Tgラットおよび野生ラットをE2投与群、プラセポ投与群(n=5)に分け、それぞれにペレットを皮下に埋め込み、60日後に血液、尿、大腿骨および頸骨を採取した。大腿骨遠位部骨密度はDEXAにて測定し、各群でE2投与による骨密度の変化について比較検討した。同時に、骨代謝マーカーとして、尿中デオキシピリジノリン、血中アルカリフォスファターゼ、血中オステオカルシンを測定した。その結果、E2投与によって、野生ラットおよびTgラットで精巣あるいは性嚢線重量に同等の減少を認め、E2投与の効果を確認した。大腿骨遠位部骨密度は、野生ラットではE2投与によって有意な骨密度の増加が認められた(0.225±0.008g/cm2 vs 0.246±0.014g/cm, P<0.05)。一方、Tgラットでは、E2投与による骨密度の変化はみとめられなかった。(0.225±0.004g/cm vs 0.229±0.012g/cm, P=0.48)。上記結果から、卵巣摘出後の雌でERを介した骨量増加作用が認められたのと同時に、雄の場合でも、E2補充による骨代謝への作用はERを介していることが示唆され、病的老化におけるERα/β役割解明の糸口が得られた。
|