研究概要 |
Heparan sulfate proteoglycanは,細胞-細胞間,細胞-細胞外基質の接着や情報伝達に密接に関与し,組織の発育や修復過程において中心的な役割をなす新たな接着分子として注目されている.我々はHeparan sulfate proteoglycanの一種であるsyndecan-1発現低下が肝癌細胞におけるin vitroおよびin vivoの浸潤・転移能と相関することを証明してきた(Matsumoto A, et al. Int J Cancer, 1997)(Ohtake T, et al. Br J Cancer, 1999).また,我々は大腸癌105例について,syndecan-1発現を免疫染色を用いて検討し,syndecan-1の発現低下が転移の有無や生命予後と強く相関することを見出した(Fujiya M, et al. Gastroenterology; 118 supp., 2000.).本研究の目的は,大腸癌におけるsyndecan-1発現低下のメカニズムの解明であり,その成果として以下に示す新たな知見を得た. 大腸癌組織におけるsyndecan-1蛋白発現とmRNA発現との関連性を明らかにするため,免疫染色およびIn situ hybridyzationを行った.その結果から,syndecan-1蛋白発現が低下した大腸癌組織では,syndecan-1 mRNAの発現も同様に低下していることを見出した. 大腸癌細胞株(HT29,colo201,T84,SW480,SW620,colo26)について,メチル化阻害剤5-aza-2'-deoxycytidineを用いて,脱メチル化によるsyndecan-1 mRNAおよび蛋白発現の変化を検討した.light cyclerによる定量的PCRの結果,メチル化阻害により大腸癌細胞株におけるsyndecan-1 mRNA発現は有意に増加していた.また,同様にflow cytometeryにてsyndecan-1蛋白の発現も,脱メチル化により増加することを確認した.これらの事実から大腸症におけるsyndecan-1発現低下は,遺伝子プロモーター領域のメチル化により制御されていると考えられた.これらの研究成果は後記の論文にて報告した. 現在,大腸癌細胞株および癌組織,患者血清からDNAを抽出し,methylation specific PCR法にてsyndecan-1遺伝子における異常メチル化の頻度やメチル化部位の同定を行っている.また,大腸癌細胞株から得たRNAを用いてRT-PCR法にて,syndecan-1遺伝子coding領域の全長cDNAを抽出した.このcDNAを,我々が樹立したsyndecan-1低発現のマウス大腸癌細胞株(colo26変異株)に導入した.このsyndecan-1高発現colo26変異株の,in vitroおよびin vivoの浸潤能について現在検討中である.
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