当院および関連病院に入院した120名の男性アルコール肝障害患者の血清を患者承諾の上、材料として用いた。比較対象として健常者6名の血清も用いた。 1、120名の男性アルコール肝障害患者の血清Carbohydrate deficient transferrin(CDT)を測定したところ、血清CDT値が5%以上の高値例は29名、2%以下の低値例は16名存在した。 2、アルコール依存症患者における先天性N-結合型糖鎖転移不全症候群(CDGS)で認められる臨床症状の出現頻度とN-結合型糖鎖の欠損を反映する血清CDT濃度との関連について検討した。CDT高値例29名と低値例16名の2群間における末梢神経障害の有無、body mass indexによる筋萎縮の評価、アルコール性てんかんの既往、病理組織学的な肝硬変の有無、CTによる脳萎縮の有無の項目につき、アルコール依存症患者におけるその出現頻度を調査したところ、末梢神経障害はCDT高値例で優位に高く(48.3% VS 6.3%)、body mass indexは優位に低下(19% VS 23%)していた。長期のN-結合型糖鎖の欠損が臓器障害を引き起こす可能性が示唆された。 3、CDT高値例の大酒家における補体のC3フラグメント(C3a、C3b)について、SDS-PAGEによる分子量変化から健常者とどのような違いがあるかを検討するため、1で得られたCDTが高値の患者および健常者血清を用いて、Western blotにてC3a、C3bを酵素免疫学的に検出した。C3aの8900kDaのバンドは健常者に比べて著明の増加していた。一方、C3bの11000kdaのα鎖と75000kDaのβ鎖のバンドは逆に大酒家では減少していたが、大酒家ではC3cやC3dと思われる分子量の小さいエクストラバンドを認めた。 4、糖鎖変異が生じている大酒家の補体機能をみるために、C3機能をGaitherらの方法に従い溶血活性で測定した。CDT高値の患者血清では健常人血清に比べて約25%溶血活性が低下していた。
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