研究概要 |
心筋細胞は生後に増殖能を失い終末分化した細胞でつねに細胞周期のG0/G1期にある。そのため、心筋梗塞症や拡張型心筋症によって心筋細胞の壊死・喪失が起こった場合、心筋細胞が再生されず心不全に陥ってさらには死亡する症例が多く、これらの心疾患の死亡率は非常に高いことは周知のとおりである。そこで心筋細胞がなぜ増殖しないのかという原因の追及さらには強制的に増殖させ心筋の再生を促す治療法の開発を目的として研究を行った。研究代表者は本年度までに、新生児ラット培養心筋細胞を用いた実験で、細胞周期に促進的に働くサイクリンDとCDK4が心筋の核内に発現されないこと、核移行シグナルを付加したサイクリンDのアデノウイルスを用いた発現によって心筋の細胞分裂を誘導できること、この現象はラット新生児および成人心筋においても観察されること、を見い出した(Mimi Tmamori-Adachi, 2003, Circ Res)。新生児ラット培養心筋細胞を用いた実験で、増殖刺激を受けた心筋細胞においてサイクリンの発現が誘導されること、しかし本来機能する核には移行せず、細胞質に局在することを見出した。そこで、核内移行できるシグナルペプチド(NLS)を付加したアデノウイルスベクターを作成し心筋細胞遺伝子導入を行った。その結果、培養皿上、および成獣ラットの心臓組織内において心筋細胞を増殖させることに成功した(Mimi Tmamori-Adachi, 2003, Circ Res)。さらに、サイクリンD1とCDK4が核内に発現しない原因の一つとして心筋細胞では特異的に核内にサイクリンD1の分解メカニズムが存在するという知見を得た(論文準備中)。
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