研究概要 |
トレハラーゼは二糖類トレハロースを特異的に加水分解し、2分子のグルコースを生成する。本酵素は哺乳動物では主に腎臓および小腸の刷子縁に存在ており、腎尿細管障害で尿中に多く排泄される。しかしその構造や病態による排泄機能は知られていなかった。我々はまず本酵素のcDNAをRabbitトレハラーゼcDNAを用いたプラークハイブリダイゼーションにより決定した。その後本酵素のmRNAは肝臓にも発現していることを明らかにした。また免疫染色の結果、トレハラーゼは肝実質細胞内に存在していることが明らかになった。そこですでに我々が尿中トレハラーゼを測定するために構築していたELISAを用いて血清中の本酵素を測定し、その病態による変動を検討した。我々はまず健常人(82名)における血清中トレハラーゼ酵素量の検討を行った。そのうち98%は感度以下であり健常人での血清中濃度は極めて低いことが明かとなった。新生児肝炎(1例はサイトメガロウイルス肝炎、2例は原因不明)と先天性胆道閉鎖症の症例について検討したところ、両者とも上昇(20-27ng/ml)がみられたが、その値に差はなかった。また特異な症例であるが、ドクツルタケ(毒きのこ)摂取による肝機能障害では血清中トレハラーゼは216ng/mlと著明な高値が認められた。本症例でのGOTは7,098単位、GTPは7,862単位と異常高値であり血漿交換を必要とした。その後回復に伴い、GOT、GPTとともにトレハラーゼも正常化(感度以下)した。10歳女児のウイルス性肝炎(原因不明)でも肝機能に伴い変動した.(GOT:628単位、GPT:878単位、トレハラーゼ:39.8ng/ml)から(GOT:51単位、GPT:95単位、トレハラーゼ:20.7ng/ml) 以上から肝機能障害患者では血清トレハラーゼの上昇がみられた。その上昇はその存在部位から肝細胞そのものの崩壊によるものと考えられた。また血清トレハラーゼの上昇がみられた患者ではその尿中トレハラーゼの上昇はみられず、尿中トレハラーゼは腎尿細管由来、血清中トレハラーゼは肝臓由来であることが明らかとなった。
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