研究概要 |
注意欠陥多動障害(ADHD)の病態にはドーパミン(DA)情報伝達の異常が関与していると考えられており、メチルフェニデート(MPH)などの中枢刺激薬が有効な治療薬である。しかし、ADHD病態改善に対するMPHの作用機序は明らかではない。線条体ニューロンに選択的に発現するDARPP-32(dopamine-and cAMP-regulated phosphoprotein, Mr 32 kDa)はPKAによりThr34残基がリン酸化されるとプロテインフォスファターゼ1(PP-1)活性抑制蛋白として作用し、DAの効率的情報伝達に必須である。本研究では、幼若(14-15生日、21-22生日)および成熟(6-8週齢)マウスより作製した線条体スライスを用いて、MPHなどの中枢刺激薬によるDARPP-32(Thr34残基)リン酸化調節機構を検討した。成熟マウスではMPHは濃度依存性(K_<0.5> 10 μM)にDARPP-32リン酸化を促進した。D1受容体拮抗薬SCH23390はMPHによるDARPP-32リン酸化を抑制した。幼若マウスではMPHによるDARPP-32リン酸化上昇は認めなかった。しかし、D1受容体刺激薬SKF81297は幼若マウスで成熟マウスと同等にDARPP-32リン酸化を促進した。コカインとメタンフェタミンは成熟マウスでDARPP-32リン酸化を促進した。幼若マウスでは、コカインによるリン酸化上昇は認めなかったが、メタンフェタミンは成熟マウスと同等にリン酸化を促進した。以上より、成熟マウスでは、MPHはDA再取り込み抑制によりDA作用を増強し、D1受容体/PKA/DARPP-32/PP-1情報伝達系を活性化することが明らかになった。しかし、幼若マウスではMPHによるDA作用の増強は認められなかった。幼若マウスにおける線条体ニューロンD1受容体情報伝達系、および、メタンフェタミンのDAトランスポーターを介した作用は成熟マウスと同等に機能しており、DA神経終末でのDA放出機構の未熟性が示唆された(現在、投稿準備中である)。
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