1.実験用高磁場3T-MR装置を用い、コントロール群として8週齢のSDラットを対象とし、正常ラット脳1H MRSを試みた。ラット脳の信号収集のために、自作の表面コイルを作成した。脳1H MRSにはPRESS法を用い、VOIはラット脳全体を含むように7×7×7mmとした。磁場の均一性を高めるために磁場を手動補正し、また深麻酔の状態を長く維持することで、安定した1H MRSのデータを収集できるようになった。正常ラットにおいて、N-acetylasparatate(NAA)、クレアチン(Cr)、コリン(Cho)のピークを信頼性良く得ることができた。正常ラットでは、lactateは検出されなかった。 2.ラットWernicke脳症モデルは、チアミン欠乏飼料を与え、ピリチアミンを腹腔内に投与することにより、約2週間で完成する。8週齢のラットを用い、2週間後のラットWernicke脳症モデルに対し、脳1H MRSを施行した。この時点では、NAAの減少、Choの上昇が観察され、神経細胞の脱落と考えられた。また、有意なlactate peakも検出されたが、嫌気性解糖の亢進によるlactate産生と神経細胞の壊死に伴うlactateの出現がその要因と考えられた。 3.このモデルについて症状のほとんど現れていない7日目にMRSを施行したが、有意なNAAの減少はみられず、lactateも検出されなかった。 4.このモデルにおいては、8日目から14日目の間に嫌気性解糖が起こりだすと推測される。脳実質に対して不可逆的変化が起こるのも、この期間と考えられ、詳細に実験、検討する必要がある。当初、定量的解析を目指していたが、表面コイルの形状的問題のため困難であった。
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