研究概要 |
本年度の目的は,DNA結合型の低酸素細胞放射線増感剤の開発であり,これまでに,スレーディングインターカレータであるナフタレンジイミド分子にメチレンアミド側鎖を介して2つの2-ニトロイミダゾール分子を導入したTX-1932の合成に成功している.TX-1932は低濃度(0.01mM)において有効増感率1.6を超える増感効果を有するが,水溶性が低く,また難水溶性であることが問題であった.TX-1932の水溶性を高める目的で種々の誘導体化を行ったものの,水溶性が上がると同時に細胞毒性も高くなり,本来の放射線照射下で抗腫瘍効果を示す放射線増感剤としては不適格であった.そこで,本年度は,DNAに直接結合するのではなく,DNAに結合して転写調節を行うp53タンパクに特異的に結合する分子に放射線増感効果を持たせた分子設計・合成を行った.p53タンパクに特異的に結合する分子としては,現在pifithrin-αが唯一の分子として知られている.pifithrin-αの構造的特長として,テトラハイドロイミノチアゾール環にメチルアセトフェノンが結合している.そこで,メチルベンゼン基を2-ニトロイミダゾール基に置換することにより,p53タンパク結合性を保持しかつ放射線増感効果を有するのではないかと考えた.この考えのもとに分子設計・合成したTX-2004は,TX-1932と比較して高い水溶性(水・オクタノール分配係数(P)=1.76),比較的低い細胞毒性(MTT IC_<50>=0.3mM, EMT6/KU細胞),非常に高い増感効果(増感率(ER)=1.85(0.01mM))を有することを明らかにした.また,TX-2004の水溶性を高めたTX-2051も合成に成功しており,今後はTX-2004とあわせてさらなる生物活性の検討を行い,日本初の放射線増感剤の創製を目指していく予定である.
|