中枢刺激薬行動感作は長期持続的であり、異なる薬物や刺激との間で交叉性が認められ、生後発達に依存した現象である。こうした特長は、発達上の臨界期までに成熟する神経回路において長期持続的な機能変性が中枢刺激薬によって生じ、その結果として行動感作が成立することを示唆している。このような神経回路の候補として大脳皮質前頭前野から中脳ドーパミン(DA)系へ入力するシステムが挙げられる。ラット遺伝子mrt1は大脳皮質における発現が急性メタンフェタミン(MAP)投与によって一過性に増強され、その増強が1)行動感作成立臨界期以降に特異的、2)行動感作成立に必要なDA受容体D1を介した神経伝達に依存、3)コカインに対して交叉応答性を示す、4)アンチセンス(AS)オリゴマーを用いたmrt1ノックダウン(KD)によって行動感作成立が阻止される、といった特徴からMAP行動感作成立の分子カスケードを構成する要素の一つと考えられる。本年度は、上記4)に示したmrt1 KDによる行動感作成立阻害が実際にmrt1蛋白質(Mrt1)翻訳阻害によってもたらされているかを検証した。 浸透圧ミニポンプを用いてmrt1翻訳開始点に特異的なASオリゴマーまたはミスセンスオリゴマーをウィスター系雄性ラット側脳室へ持続的に導入し、3日目に4.8mg/kgのMAPを皮下投与後3時間での蛋白質発現をウェスタンブロット法にて定量的に解析した。内部標準としてアクチンを用い、同一ブロット上の化学発光シグナルを連続して冷却CCDカメラに取り込むことで解析した。側脳室に導入したオリゴマーは配列特異的に線条体におけるMrt1発現量を抑制し、比較に解析したArcの発現量に影響を与えなかった。また、大脳皮質及び線条体でのMAPによるMrt1発現増強はASオリゴマーによって抑制された。以上より、mrt1KDはMrt1特異的に機能することが示された。
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