研究概要 |
致死量X線マウスの骨髄・脾臓・肝臓におけるサイトカイン等の発現をRT-PCR法で確認するとともに、血清中におけるサイトカインの濃度をELISA法で測定した結果、有意に遺伝子の発現が上昇したのはSCFであったが、血清中のSCFの増加はflt3-ligandほど顕著ではなかった。ただし、いずれのサイトカインも生体外幹細胞増殖で用いられる濃度に比してはるかに低い濃度であった。SCFに関しては膜結合型のSCFの発現が誘導されたことが判明した。実際のSca-1/c-kit両陽性細胞(造血幹細胞)の動態をセルソーターを用いて解析し、いつ増幅が起きているのかを把握した。骨髄では骨髄移植後4日目から増加し始め9日目には正常時に比べ約13倍に増加し、増減を繰り返しながら30日目までにほぼ正常値に戻った。増殖期のSca-1/c-kit両陽性細胞の細胞周期はおよそ14時間であった。増殖期造血幹細胞におけるサイトカインレセプターの発現を磁気分離法によって選別したSca-1陽性細胞でPCRにより検討した結果、生体外幹細胞増殖に用いられるサイトカインレセプター(c-kit, IL-6R, flt-3等)およびtie-2の発現は認められるものの、発現が増強されているものは認められなかった。またCD34,GM-CSFRの発現は認められなかった。さらに造血幹細胞増殖阻害因子であるMIP-1αの骨髄細胞での発現を検討したが、発現は認められるものの顕著な変化は認められなかった。したがって放射線照射後に誘導される造血幹細胞の迅速な増殖は、微小環境中の造血幹細胞増殖抑制因子の産生量が低下するために引き起こされるのではなく、既存のサイトカイン以外に新たに誘導される支持細胞が産生する膜結合タイプのサイトカインが関与している可能性が強く示唆された(論文投稿中)。
|