研究概要 |
本研究ではヒト胃癌に対し,増殖因子受容体を免疫ターゲッティングに用いた抗体治療の可能性を検討した。胃癌の悪性度に相関する増殖因子受容体としてはEGFR(HER-1),HER-2/neu, c-metなどが知られている.このうちHER-2/neuの過剰発現は高分化腺癌でみられ,転移能が高く予後不良である。昨年度までに我々は,HER-2/neuに対するモノクローナル抗体の遺伝子配列からFv領域をコードするDNA断片のみを分離精製してプラスミドベクターにサブクローニング,得られたプラスミドで大腸菌を形質転換し,緑膿菌外毒素(Pseudomonas exotoxin, PE)に連結した組換え型イムノトキシンerb-38[e23(dsFv)PE38]を精製することに成功し,HER2高発現性胃癌細胞に対するin vitroでの特異的細胞傷害活性が証明した。しかし組換え型抗増殖因子受容体イムノトキシンの治療効果は生体の臓器微小環境によって修飾される可能性があるので,我々は肝転移,リンパ節転移,腹膜播種性転移など,臨床胃癌でみられる種々の転移形式を想定したマウスモデルでのvivo実験を進めた。HER-2/neuを高発現するMKN45Pの脾注モデルにおいて,erb-38の静脈内投与(7,9,11日目,各5mcg)は肝転移,腹膜播種,腹水生成を有意に抑制した。また,対照群が70日目までに全て死亡したのに対し,治療群では100%の健存が得られた。MKN74を使った同モデルでは0.5mcgで十分な治療効果が得られた。本治療の臨床移行を目指し,現在,手術で切除した胃癌組織のerb-38に対する感受性をHistoculture Drug Response Assayにより解析し,同一組織片から解析した各増殖因子の発現強度との相関性を検討中である。
|