研究概要 |
ラットにおける開腹モデルを用いて,侵襲刺激が如何に癌細胞の転移・増殖に影響を及ぼしているかを侵襲が少ない小切開群と大切開群に分けて検討した.大切開群では明らかに炎症性サイトカインの発現が増加しており,それに伴い腫瘍の重要な接着因子であるE-selectinの発現も増加していた.また,門脈から注入した腫瘍の肝への付着も大切開群で明らかに付着が増加していることをアイソトープ標識癌細胞ならびに肉眼的な肝転移巣のカウントを行うことによって確認した.以上の結果から,大侵襲は腫瘍の転移・増殖に対してそれらを亢進させることが判明した.さらに,これらの結果に基づき,サイトカイン産生抑制作用があるメチルプレドニゾロン投与群(MP群)とコルチコトロピン産生因子受容体拮抗剤投与群(CRF-ant群)を作成し,大切開を加えて腫瘍の転移の状況をみると,各々の群で大切開群と比較して有意にサイトカインの産生は抑制され,接着因子も同様に抑制されているにもかかわらず,MP群では腫瘍の転移巣の数が有意に増加していることが判明した.さらにCRF-ant群では予想通りに腫瘍の転移は抑制されていることが判明した.MP群では,サイトカインならびに接着因子の発現は明らかに低減しているにもかかわらず転移が増えた原因を調べるべく,免疫能の指標としてNK cell活性とリンパ球数を測定したところ,MP群では有意にNK cell活性とリンパ球数が低下していることが分かった.以上の研究結果から,外科的侵襲は腹部手術時に血中の腫瘍細胞の転移・付着を促進し,過大侵襲を抑制することが血行性転移を減少させるために重要なこと.さらに,血中における免疫能が血行性転移には重要な役割を演じていることが判明した.今後,侵襲を抑制し,かつ,免疫能を高める治療法の開発が肝要であると考えられる.
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