研究概要 |
基礎研究 体外循環回路の生体適合性向上のため、生体機能高分子による回路のコーテイングを行った。まず、ヘパリンにアルキル基を付加し、体外循環回路のような疎水性表面への吸着効率を高めたものを合成した。ブライミング内にこのアルキルヘパリンを入れることにより、従来のヘパリンコーテイングと同等の抗血栓性と抗血小板活性を認めた。しかし、抗補体活性は認められなかった。我々は赤血球細胞膜に抗補体活性を持つDAFやCD59が存在し、これらの分子構造がアルキルヘパリンに似ていることから、これらの機能蛋白の体外循環回路へのコーテイングを試みた。DAF,CD59とも回路表面に非常に良く吸着することが分かった。DAF,CD59によるコーテイングを行った回路は優れた抗血栓性、抗血小板活性、抗補体活性を示した。ウサギを用いて体外循環を行い、生体適合性を検討したところ、赤血球膜蛋白コーテイングは非常によい生体適合性を示した。 臨床研究 人工心肺を伴う心臓手術症例24例で、12例をコントロールとし、12例に対し、PGE1を投与し、周術期の炎症応答、獲得免疫応答障害、リンパ球への酸化ストレスを検討した。PGE1は周術期のサイトカイン(IL-6,IL-8,IL-10)の上昇を抑制する効果は見られなかった。しかし、術後1日目の細胞性免疫応答の障害は有意に軽減されていた。リンパ球のグルタチオン量を測定するとPGE1投与群で、グルタチオン含量の低下が軽減していた。PGE1による細胞性免疫保護効果はリンパ球への酸化ストレスが軽減したことによると考えられ、PGE1が他臓器に対しても酸化ストレスを軽減し臓器機能を保護する効果を持つ可能性が示唆された。また、体外循環後の凝固亢進はPGE1投与により抑制された。モノサイトの組織因子の発現がPGE1により抑制され、体外循環後の過凝固状態が抑制されることが分かった。
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