研究概要 |
日本家兎対麻痺モデルを用い,remote ischemic preconditioning (R-IPC)に関し実験を継続した.昨年度の実験では,従来の脊髄そのものの虚血によるischemic preconditioningに比較し,(1)保護効果に確実性が低い,(2)48時間後に脊髄麻痺の発生個体が多いことを認めた.そのことより,ischemic preconditioningの条件そのものを見直すこと,また臨床的にdelay paraplegiaと類似する時間をおいてからの対麻痩発生についても検討を進めることを目的に本年度の研究を進めた.保護効果の確実性が低いことに関しては,昨年度までは,下腿の5分間虚血,5分間再灌流による計30分間のR-IPCを行っていたが,条件を変更し,3分間虚血,3分間再灌流による計30分間のR-IPCを行うことにより大動脈遮断直後の対麻痺回避率は有意に向上した.しかし,48時間後の対麻痺に関しては,R-IPCの虚血・再灌流のインターバルによる対麻痺回避率の相違は認められず,さらに脊髄そのもののIPCに比較し対麻痺回避率は低い結果となった.また,R-IPCに使用する臓器を下腿より片側腎臓に変更し同様に虚血・再灌流を行い脊髄に対する保護効果を検討したところ,5分間虚血,5分間再灌流によるR-IPCによる脊髄保護効果は,腎動脈下大動脈を虚血・再灌流した場合と同等の対麻痺回避比率となり,48時間後の対麻痺回避率も脊髄そのもののIPCと同様の結果となった.これらのことより,R-IPCは現実に存在するものであるが,虚血・再灌流を与える使用臓器によりその効果に違いが生じることが明らかとなった.今回の検討では,腎臓を使用したが,IPC操作の後の腎機能についての詳細な検討はできていない.今後は,腎臓のみに限らず,肝臓・脾臓等について検討を進める必要があると同時に,R-IPCの本体(昨年度も触れたように体液性物質などの存在)について検討を進める必要があると考え,現在も実験を継続している.明らかな結果はまだ出ていないが,R-IPCを増強する可能性がある薬剤としてK_<ATP> channel openerであるnicorandilを術前投与しているが現時点では,下腿の虚血・再灌流によるR-IPCにおいても,期待できる脊髄対麻痺回避率が認められている.今後,組織学的.電気生理学的検討を加えR-IPCについて研究を進めていく予定である.
|