研究概要 |
これまでに申請者は、共同研究者らと共に細胞が獲得する耐性能に関与する遺伝子を検索するために肺癌細胞株、卵巣癌シスプラチン耐性株、白血病抗生物質耐性株、印環細胞癌株を用いてcomparative genomic hybridization(CGH)法を実施してきた。また、同時に放射線照射に対し扁平上皮癌よりも耐性能の高いといわれる肺腺癌の特徴を知る目的で、血管新生の機序について分子病理学的に検索した。CGH法を実施する目的で肺腺癌細胞株(A549,HLC-1,LC-2/ad,PC-14)合計4種類を用いそれぞれの染色体における特徴を検討した結果、正常ヒトのリンパ球の染色体と比べA549細胞株では合計7染色体(4、6,11,13,18)に欠損を、15,19の短腕に増幅を示した。残りのHLC-1とLC-2/adでそれぞれ合計13、10染色体に変化を認め、PC-14では合計18染色体に異常を示した。PC-14が最も多くの異常があることはこの細胞株が最も低分化であることと矛盾しない。印環細胞癌では染色体増加は2q,5p,7q,14q,20qで、欠損は,6p,17p,6q,21p,3p,8p,8qで高頻度であった。特に6pにおける欠損は通常の胃癌では見られない事実を考慮すると印環癌に特異性が高い可能性が指摘できた。一方、薬剤耐性獲得に関与する遺伝子を検索すると、シスプラチン抵抗性を獲得した株A2780CPはその親株A2780と比較して1P361-363,19p131-133,19p12-131に欠損を示し、さらに、一方で3q-21に明らかな増幅を示した。これらの領域におけるDNAコピー数の変化がシスプラチン抵抗性の獲得に深く関与することを明確にした。また、これらの遺伝子に含まれるAtaxia遺伝子の欠損が深く関与する可能性を検討しつつある。一方、血管新生の基本的機序を電子顕微鏡的に確認し、さらに内皮細胞成長因子VEGFとその受容体が深く関わるのみならず、protease-activated receptorが血管新生に相乗効果を示す事実を把握することが出来た。
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