血栓溶解のメカニズム(線溶系)についての研究で、血管内皮上のAnnexin IIという物質について最近解明が進んでいる。本研究ではラットの脳梗塞モデルに対するAnnexin IIの血栓溶解作用を、動物実験用高磁場MRIを用いて評価した。また病理組織学的評価との比較を行った。 予めAnnexin IIを投与しておいたラットの頸動脈に、自家血栓を注入し脳梗塞を作成したところ、非投与群に比べ3時間後の拡散強調画像では、見かけの拡散係数(ADC)の低下した範囲が減少する傾向を認めた。灌流画像において非投与群では、血栓注入の30分後と3時間後で灌流低下領域は不変であったが、投与群においては3時間後に低灌流領域の改善を認めた。また撮影終了後に抽出した脳の病理組織学的標本で確認された梗塞範囲と、ADCが低下した範囲は非常に良く相関していた。一方で血栓注入後にAnnexin IIを投与した群を非投与群とくらべたところ、画像上のADC低下領域と病理標本の梗塞範囲は、両群でほぼ同程度であった。 以上のことからAnnexin IIは、その血栓溶解作用により閉塞血管の再開通を促し、脳梗塞の範囲縮小、進展阻止に有用である可能性が示唆された。またその投与は脳梗塞発症前に行うことが効果的であると考えられた。現時点では症例数が少ないため有意差は明かでないが、今後実験を継続することで非投与群との差は有意なものになると認識している。また今後投与量を変化させ、至適投与量についても検討する予定である。さらに投与群、非投与群について、脳梗塞作成前後で迷路実験を行い、学習及び行動的側面からも評価を行うことで、Annexin IIの有用性を検討する予定である。
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