研究概要 |
本年度は昨年までの電気泳動法での発現比較をさらに詳細に検封するために、リアルタイムPCR法を用いて検討した。HOX遺伝子の発現プロファイルを解析するために手術時のインフォームドコンセントのもとで得られた正常卵巣組織、卵巣子宮内膜症組織、および卵巣癌細胞株(明細胞癌および非明細胞癌)、から遺伝子抽出用キットを用いてtotal RNAを抽出し、ランダムプライマーを用いて、逆転写酵素によりcDNAを作成した後、β-actinを内部補正としてリアルタイム法を用いてPCRでのそれぞれの組織でのHOX遺伝子の発現比較を行った。まず、標準曲線を得るために行われたPCR産物を10分の1倍づつ希釈しこれをふたたびテンプレートに用いて、一定量のPCR産物が生成されるまでのPCR回数を解析し、希釈された濃度に対応するシグナル強度を算出しこれを標準曲線とした。さらに測定すべき検体(正常卵巣、卵巣子宮内膜症および癌畑胞)から抽出し合成されたcDNAをリアルタイムPCRを用いて同様に各検体でのシグナル強度を測定しこれを標準曲線上にプロットし、さらにコントロールとなる正常卵巣上皮での値を1として卵巣子宮内膜症や卵巣癌細胞での発現量が相対値により比較できるように検討した。 このような方法を用いて詳細に検討すると、卵巣子宮内膜症では正常に比較し、HOXA5,A6,B5,B7,C10,C11,D10において正常卵巣上皮での発現量に比較し5倍から数千倍の発現亢進が認められた。一方卵巣癌においてはHOXA3,A10,A13,B2,B4,B7,B9,B13,C13,に同様の発現亢進が認められた.これらを比較した場合共通の発現異常としてHOXB7があげられ、またこの遺伝子異常はそのどちらにおいても数千倍の強度の発現亢進を認めていることから2つの疾患に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。 臨床的に子宮内膜症から卵巣明細胞癌への連続的な変化は組織学的に多数報告されており、このことから何らかの共通の遺伝子異常の存在が示唆され、さらには2つの疾患に共通する臨床態度として病変の周囲組織への湿潤や転移が報告されている。一方HOXの本質的な役割として細胞の位置情報の伝達を行う転写因子としての役割を担っていることが最近明らかになっていることから、2つの疾患に認められる細胞湿潤や細胞の転移といった細胞の位置情報の乱れとHOXB7の異常発現とが何らかの関係を持っている可能性があると考えられた。
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