研究概要 |
前年度の研究結果で,胎児由来幹細胞の分離のためのpreliminaryな方法では,従来我々が行っていた胎児由来の有核赤血球分離の結果と比較すると,新たな条件下でソーティングされた細胞の種類は不均一かつ極めて少量で,FISH法では明らかな胎児由来細胞を同定することが出来なかった。最近,母体血漿中に胎児由来DNAが存在し,母体末梢血中において胎児由来細胞がアポトーシスをおこしている可能性が示唆された。そこで,胎児由来幹細胞の分離に先だって,母体末梢血中での胎児細胞へのアポトーシス関与の有無を検討した。 十分なインフォームド・コンセントを書面で得られた妊娠15週〜20週の妊婦より末梢血20mlをヘパリン採血した後、蛍光標識した各表面マーカーに対する抗体を結合させ,さらにアポトーシス関連抗体も同時に結合させた。FACS Vantage(Becton Dickinson社)にて胎児由来細胞の分離を行い,アポトーシス関連抗体の有無でソーティングした。ソーティングされた細胞は,FISH(Fluorescence in situ hybridization)法によるシグナルの検出によって胎児由来かどうか確認した。その結果,アポトーシス関連抗体陽性の細胞で胎児由来のものは極めて少量であることが,はじめて明らかになった(Prenat Diagn 2002)。したがって,母体末梢血中において胎児由来幹細胞が短時間に破壊されてしまう可能性は高くなく,むしろ,長期間存在して母体組織中においてマイクロキメリズムをおこしている可能性も考えられた。 今後は,ソーティングの条件ならびに使用する細胞表面マーカーの選択を変えてみることで,胎児由来の幹細胞を分離・収集をはかる一方,母体内での胎児由来幹細胞の生理学的な役割も研究していく予定である。
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