研究概要 |
[目的]妊娠中毒症では血管機能障害が病態形成に重要な役割を果たしていると考えられる.今回私達は,重症妊娠中毒症妊婦血清の血管内皮細胞に対する傷害作用・修復阻害作用を検討した. [方法]妊娠28〜32週の正常妊婦または重症妊娠中毒症妊婦(各n=7)の静脈血を同意のもと採取し,血清分離後-40℃に保存した.マウス血管内皮細胞株(MSS31)の培地に各検体血清を最終濃度10%になるように添加し24〜48時間培養し影響を検討した.細胞増殖はtrypan blue dye exhaust testにて,cell migrationはwound healing assayにて測定した.一酸化窒素(NO)産生は培養液中のnitrite濃度で,peroxynitriteの産生は抗nitrotyrosine抗体を用いたdot blotで評価した.内皮型NO産生酵素(eNOS),誘導型NO産生酵素(iNOS)の発現はimmunoblottingで検討した.またマクロアレイ法により血管新生に関与するmRNA発現の違いを検討した. [成績]重症妊娠中毒症妊婦血清添加後24時間では正常妊婦血清添加に比し,NO産生は有意に亢進し,iNOS発現亢進,eNOSの発現低下が認められ,peroxynitrite産生はやや亢進した.細胞増殖及びcell migrationは抑制されたが,VEGF等の血管新生に関与する増殖因子のmRNA発現は亢進した.細胞増殖・cell migrationは血清添加48時間では重症妊娠中毒症と正常妊婦血清の間の有意差が無くなったが,培地を24時間毎に変更した場合は24時間同様,中毒症血清添加で有意に抑制された. [結論]重症妊娠中毒症妊婦血清添加24時間では細胞増殖・cell migrationは抑制されたことより,重症妊娠中毒症血清には血管内皮障害作用があると考えられる.またVEGF等の増殖因子の発現亢進も妊娠中毒症病態形成に何らかの影響を及ぼしている可能性があると思われる.
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