研究概要 |
妊娠母体血中には妊娠初期より胎児DNAが存在し,妊娠経過とともに増加し,分娩後急速に母体血中より消失すると報告され,非侵襲的な出生前診断に利用され始めている。しかしながら最近,母体血中および母体血清,血漿中に長期間にわたり胎児DNAが存在するとの報告もあり,これが本当であれば前児のDNAが長期間残存することとなり、次回妊娠の出生前診断に影響を与える可能性がある。そこで今回われわれは、分娩前後の胎児由来SRY遺伝子領域の定量的PCRを行い、母体血清中の胎児DNAの分娩前後での変化を調べ,胎児DNAが分娩後に長期間残存する可能性について検討した。対象は検体提供に同意の得られた妊婦24例で,妊娠36週から41週に男児を分娩した20例と女児を分娩した4例である。各症例について分娩前,分娩直後,産褥1日目の3点で母体末梢血を採取し,これらの血清1.2mlからDNAを抽出した。このDNA中に含まれる男児DNAをSRY遺伝子領域のプローブを用いたTaqman PCR法で増幅検出し,胎児DNA量として定量化した。その結果,20例の男児分娩群において,母体血清中1ml中の胎児DNA量は分娩前では平均85.72copy/ml(16.42〜246.96copy/ml)であり、分娩直後では平均64.24copy/ml(2.92〜202.53copy/ml)と有意に減少していた(P=0.03)。また,分娩後1日目では男児分娩群の20例中9例(45%)で胎児DNAは検出されず,胎児DNA量は平均3.37copy/ml(0 15.97copy/ml)とほぼ消失していた。一方,女児分娩群4例はいずれの時点においても,SRY遺伝子領域のPCR増幅産物は検出されなかった。これらの結果から母体血清中の胎児DNAは分娩前に最も高値を示し,分娩後は速やかに減少し,産褥1日目にはほとんど消失していることが確認された。したがって母体血清中の胎児DNAが長期間残存し次児の出産前診断に影響を与える可能性は低いと考えられた
|