研究概要 |
癌の早期発見を目的として、癌細胞で高頻度に発現するサイトケラチン19遺伝子を癌患者の末梢血から検出する試みがなされてきたが、近年この遺伝子の発現が健常人の末梢血からも検出され、特異性が低いという報告がなされている。我々が卵巣癌患者を対象に行った研究においても、卵巣癌患者において高頻度に検出されるが同時に健常人においても検出され、その特異性は低いという結果を得て既に報告している。しかし、我々が用いたnested RT-PCR法は、高感度に安定して末梢血から遺伝子の発現の検出が可能であり、適切な標的遺伝子に用いれば非常に有用であると考える。一方、マイクロアレイを用いた研究等によって、卵巣癌に特異的に発現している遺伝子が報告されている。我々は、今までに確立した末梢血からnested RT-PCR法を用いて遺伝子を検出する方法により、卵巣癌に高頻度に発現している遺伝子を検出し、癌の早期発見に応用することを計画した。インフォームドコンセントを得た25例の卵巣癌症例、良性卵巣腫瘍症例14例、正常人20人の末梢血からm-RNAを抽出しnested RT-PCR法を用いてCA125、およびマイクロアレイ等により新たに卵巣癌で高頻度に発現していることが報告されているprotein disulfide isomerase-related protein, Mac-2-binding protein, AA723859(EST)について検出を行った。卵巣癌症例にはCA125は25例中25例100%、protein disulfide isomerase-related proteinについては25例中20例80%、Mac-2-binding proteinについては25例中20例80%、AA723859(EST)については25例中21例84%とそれぞれ高頻度に検出された。しかし、正常人においてもCA125は25例中23例92%、protein disulfide isomerase-related proteinについては25例中19例76%、Mac-2-binding proteinについては25例中22例88%、AA723859(EST)については25例中19例76%検出されており、正常人の末梢血からも高頻度に検出され特異性が低いという結果となっている。癌組織で高頻度に発現するとされる多くの遺伝子が、正常組織でも極わずかに発現している可能性があり、今後検出法の特異性の向上と、新たなターゲットについての検索が必要である。
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