研究概要 |
温度誘発眼振は,外耳から加えられた温度刺激により内リンパ対流がおこり,半規管膨大部の有毛細胞を刺激することでみられる眼振であると考えられていた.これを応用したのが平衡機能検査のうち広く行われているカロリックテストである.従来バラニーの説に基づいて考えられていたが,スペースシャトル内での実験すなわち無重力環境下で温度眼振が誘発されたため内リンパ対流説に疑問が投げかけられ,直接温度効果説,内リンパ液の膨張説などが提唱され,未だ解明されていない. 前年度で課題となっていたエアーカロリックの刺激条件は借用した機器の性能の範囲で種々試みた.結果として温刺激は44.0度,冷刺激は13.8度で6.0リットル/分の流速とした.一方回転椅子の精度を高めるため駆動モーターとコンピュータ制御の改善をし,刺激条件もいろいろ行ったが,振子様刺激は周波数2Hz,最大片側振幅6,8,10,12度のものを用いた.結果として最大角加速度は946.2〜1893.0度/秒・秒の刺激となった.実験結果として利得は刺激が大きくなるに従い若干低下傾向にあったが,ほぼ不変であった.こうした傾向は温刺激,冷刺激,刺激なしのいずれにおいても同様であり,今回の刺激範囲では明らかに利得の低下するポイントすなわちsaturation pointがこの範囲にないことがわかった.エアーカロリックの機器も改良中であるが,温刺激は限界があるので,冷刺激としてさらに強い刺激を与えるためにエアーカロリックではなく氷水を用いるなどの試みや逆にもう少し弱い反応で比較することを行っているところである. 引き続きsaturation pointを証明することで直接温度効果の関与を示すとともに,内リンパ対流に起因しない別の半規管機能障害を発見する検査法を開発し新たな疾患分類を試みたいと考えている.
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