研究概要 |
難聴は新生児約1000人に1人の割合で罹患が見られる感覚器障害で、先天性難聴の50%以上が遺伝性であると推定されている。遺伝性難聴の約70%が他の臨床症状を示さない非症候群性である。このうち最も多い常染色体劣性非症候群性難聴(ARNSHL)は新生児約2500人に1人で見られ、30〜100の異なる遺伝子が関与していると推定されている。現在までに34ヶ所のARNSHL座位が報告されている。我々はヒトゲノムプロジェクトの戦略のもと、21q22.3領域にマップされていた常染色体劣性非症候群性難聴(ARNSHL)、DFNB8およびDFNB10のポジショナルクローニングを目指し、パレスチナ人患者家系を用いた連鎖不平衡解析からDFNB10はマーカー1016E7.CA60-1151C12.GT45の間約1Mbに存在することを明らかにした(Genomics 68:22-29,2000)。そこで我々はこの領域に存在する全ての遺伝子を明らかにするためにエキソントラッピング法とコンピュータ予測を駆使し、結果として13個の遺伝子を同定した。これら全ての遺伝子について疾患家系に対して変異解析を行ったところ、今までに同定されたARNSHL原因遺伝子とは機能の面で異なる新規膜結合型プロテアーゼ(TMPRSS3)遺伝子にβサテライト・リピートの挿入という極めて特異な変異が見つかった(Nat.Genet.,27:59-63,2001)。我々が同定したDFNB8/10の原因遺伝子(TMPRSS3)の欠損が難聴を引き起こすメカニズムを解明するために、まず、ヒトの内耳は研究試料として入手が困難なためマウスTmprss3に対するcDNAを単離し、マウスの内耳切片を用いてin situハイブリダイゼーションを行い、Tmprss3の組織発現をmRNAレベルで明らかにする事を試みた。その結果、ラセン神経節、コルチ器、血管条に発現が見られた。また、TMPRSS3タンパクは細胞内において細胞内小器官のうち小胞体に局在して機能していることも明らかとなった。さらにTMPRSS3タンパクによって切断を受ける基質候補として上皮細胞ナトリウムチャネル(ENaC)を同定した(Hum.Mol.Genet.,11:2829-2836,2002)。
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