研究概要 |
昨年度までに、温度感受性SV40 large T抗原遺伝子導入ラット網膜から単離された視細胞株(clone : tsSV40 p-2)を用いて、視細胞死に対して保護作用を有する因子を検討してきた。in vivo動物実験モデルにおいて現在までに視細胞変性に対して保護効果を有することが報告されている栄養因子(BDNF, CNTF)の保護作用について調べた結果、BDNF, CNTFの培地中への添加によって、血清除去によって誘導される細胞死が顕著に抑制された。また、アデノウイルスベクターを用いてCNTF, BDNF遺伝子をtsSV40 p-2に導入したところ、細胞死が、導入しない群に比較して遅延することが明らかとなってきた。 本年度は現在市販されている薬剤の中から網膜神経細胞死に対して保護作用を有する薬剤を見出すため、薬剤のスクリーニングを行った。ベタキソロールは緑内障治療薬として使用されている薬剤である。摘出網膜を用いた研究で、低酸素負荷に対する細胞障害に対して、ベタキソロールは保護作用を有することが明らかとなった。また、ベタキソロールの保護のメカニズムは電位依存性カルシウムチャネルブロッカーとして作用することによるとすでに報告されていたが、この研究で細胞外からのカルシウム流入を抑制するだけではなく、細胞カルシウム濃度を別の機構でコントロールしている可能性が示された。また、ベタキソロールと同様緑内障点眼薬であるニプラジロールの保護効果についても検討した。ニプラジロールは一酸化窒素遊離作用を有することが知られている。軸索切断による網膜神経節細胞死に対して保護作用を持つこと、培養細胞を用いた研究でそのメカニズムはcGMP依存性のカスパーゼ活性抑制とカスパーゼのニトロソ化による直接的な酵素活性抑制が介在していることが明らかとなった。
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