研究概要 |
歯科臨床においては,口腔粘膜の創傷部に低出力レーザーを照射することで,治癒が促進されると報告されている。しかしながら,その作用機序について,未だ十分に解明されてはいない。そこで本研究では,細胞内シグナル伝達で重要な役割を担う各種protein kinaseに着目し,低出力レーザーの上皮細胞におよぼす効果について検討を行った。 培養歯肉上皮細胞に,He-Neレーザー(タカラベルモント社,ベルビーム)と,半導体レーザー(ヨシダ社,トリンプルD)を各種条件で照射後,細胞増殖能を比較検討した。半導体レーザーでは20秒照射で最も細胞増殖が促進され,He-Neレーザーにおいても,同様の傾向が得られた。しかし,He-Neレーザーにおいては,60秒間以上照射すると細胞増殖が抑制される。そこで,細胞への為害作用が少なく,且つ,生物活性を高める半導体レーザーを使用し,以下の実験を行った。 至適照射条件下でレーザーを細胞に照射後,MAP kinaseとPKC (protein kinase C)について,[γ-^<32>P]ATPを用い測定した。その結果,MAP kinaseはレーザー照射10分後,一過性の活性上昇が生じた。一方,PKC活性は,レーザー照射30分後まで上昇し,その後高い活性状態が続いた。また,conventional PKCを共焦点レーザ顕微鏡にて観察すると,照射後,細胞膜上へPKCがtranslocationする像が確認された。同様に共焦点レーザ顕微鏡を用いtyrosine kinase活性をみると,照射15分後には,歯肉上皮細胞の細胞膜上に強い反応が確認された。さらに,serine kinase活性は,レーザー照射により核周囲の膜系構造物に強い陽性反応が認められ,threonine kinase活性は細胞膜上および核周囲に活性上昇が認められた。また,Jun kinase活性は,非照射群の細胞では細胞質に陽性反応が散在性に認められたが,レーザー照射により核周囲の膜系構造物に一致し,強い陽性反応が発現した。 以上,歯肉上皮細胞の細胞内シグナル伝達系におよぼす低出力レーザーの効果は,細胞膜,あるいは核周囲に存在する膜系構造物における各種protein kinaseを活性化することが明らかとなった。
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