歯根膜神経とマラッセの上皮遺残 マラッセの上皮遺残は、歯根膜の中で歯根を網目状に取り囲む上皮細胞集団であり、これら上皮細胞は、通常では休止期にある細胞集団とみなされている。しかし、本研究者は、歯根膜神経以外にも神経特異的マーカーを発現する細胞が上皮遺残にも存在し、歯根膜神経と密接な関係にあることを報告した。本研究では、1)マラッセの上皮遺残が単なる上皮細胞の集まりではなく、皮膚と同様に様々な細胞から成り立っている組織である、2)豊富に存在する歯根膜神経と上皮細胞集団は、複合体を形成している、という二つの仮説を立て、立証を試みた。実験動物としてネコを用いた。 その結果、マラッセの上皮遺残には、メルケル様細胞が存在することが微細形態学的に明らかとなった。また、一部のメルケル様細胞が、歯根膜神経と複合体を形成していることも明らかとなった。従って、2種類のメルケル様細胞がマラッセの上皮遺残に存在していた。以上の結果は、未だ明らかとされていないマラッセの上皮遺残と、メルケル細胞の生理機能に対して新たな形態学的根拠を与えるものである。さらに、マラッセの上皮遺残には明調性、暗調性を示す細胞も含まれていることも明らかとなった。今後はマラッセの上皮遺残をheterogenousな細胞集団として見直す必要がある。 マラッセの上皮遺残に含まれるメルケル様細胞の起源 メルケル様細胞の発生学的由来を明らかにするため、マラッセの上皮遺残の起源とされているヘルトビッヒ上皮鞘の経過を観察した。ヘルトビッヒ上皮鞘形成初期には神経特異的マーカーに陽性を示す細胞が認められたものの、その後の歯根形成期には神経のみ免疫陽性反応を示し、同時に免疫陽性を示す思われたメルケル様細胞は、ヘルトビッヒ上皮鞘において認められなかった。今後はサンプル数をさらに確保し、より優れたマーカー存用いて詳細に検討を加える必要がある。
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