本研究は、より生物学的な歯髄保護材開発のための基礎的研究の環として、免疫担当細胞、特に抗原提示細胞、炎症性細胞ならびに神経線維の分布、局在が歯髄疾患の病態を把握する指標となり得るかどうかを検討するとともに、う蝕修復処置後の歯髄治癒過程におけるこれらの動態を免疫組織化学的、微細構造学的に検索するものである。研究要旨の同意を得られた抜去適応の健全あるいはう蝕歯を用い、従来の臨床術式に則し、う蝕検知液下にてう蝕を可久的に除去し、また細菌感染のある歯髄組織の修復過程と比較するために健全歯を用い、様々な深さの窩洞を形成し、レジン充填処置を施し、一定期間経過後抜去して試料を得て検討し、以下の結果が得られた。 1)健全歯:窩洞の深さによる段階的な象牙芽細胞の変化、それに伴う樹枝状細胞の局在変化が観察された。深さ二分の一までは、著しい変化は見られないものの、それを越えると急激に変化が認められ、三分の二をこえると、象牙芽細胞が消失し代わりに樹枝状細胞が配列していた。 2)う蝕歯:表層が再石灰化していると思われた平滑面エナメルう蝕下においても、樹枝状細胞ならび神経線維の集積がすでに観察され、象牙芽細胞の変化もみとめられ七他の免疫細胞の局在には変化は認められなかった。 3)う蝕歯処置後:う蝕を除去した後でも局所的な樹枝状細胞、T細胞、神経線維の集積は認められ、深部う蝕ではB細胞も観察され、樹枝状細胞とリンパ球の頻繁な接合も認められた。画像解析による統計学的検討により、樹枝状細胞のう蝕前後の変化に有意差は認められなかった。しかしながら窩洞の深さによらず象牙芽細胞は常に認められ、健全歯で観察されたような樹枝状細胞による置換は認められなかった。 全症例において、窩縁相当部には樹枝状細胞の集積は認められないことから、マイクロリーケージはおこっていないと考えられる。さらに、長期例、修復材料による組織反応の違いについて、検討中である。
|